プロフェッショナル消費税の実務
31/36

第2章軽減税率制度と適格請求書等保存方式りませんでした。 しかし、諸外国の付加価値税では、インボイスをもとに納税額を計算するインボイス制度が広く採用されており、「自己記録」を控除の基礎とする日本の消費税の仕組みは、制度の透明性と信頼性の確保という点から問題視され、「第三者作成書類」を保存する方法が求められました。そこで、平成6年度税制改正において、帳簿の保存に加え、前段階の事業者が発行した請求書等の客観的な証拠書類の保存を要件とする請求書等保存方式に改められました。 大部分の事業者間取引において請求書等が交わされ保存されているという取引の実態があり、事業者に多くの負担を要求することなく制度の透明性を高める方法としては、「請求書等保存方式」が妥当であると評価されたのです。改正は、消費税法30条7項の規定を「帳簿又は請求書等の保存」から「帳簿及び請求書等の保存」とすることで控除要件を厳格化するものです。 保存するべき請求書等は、事業者の追加的な事務負担を極力抑えるために、多くの事業者間取引において、通常、交わされている納品書、請求書、領収書等が想定されています。この改正においても、課税資産の譲渡等を行う事業者に請求書等を発行する義務は設けられませんでした。 したがって、請求書等保存方式は、課税資産の譲渡等を行う事業者には請求書等の発行の義務がないのに、他方で、仕入れをした事業者には、その交付を受けて保存することを要求するという制度的な矛盾があると指摘することができます。 請求書等保存方式は、平成9年4月1日以後適用されています。972.経過措置としての区分記載請求書等保存方式 平成28年度税制改正では、軽減税率の導入と、それに伴うインボイス制度への移行が決定しましたが、「当面は、執行可能性に配慮し、簡素な方法によることとする」(平28与党大網12頁)とされ、請求書等保存方式を維持することになりました。 ただし、1つの請求書等に税率が異なる課税仕入れが記載されている場合には、軽減税率の対象にはその旨及び税率ごとの支払対価の額の合計額が記されていなければなりません。 軽減税率が導入された令和元年10月1日以後は、単一税率制度下の請求書等保存方式と区別して、区分記載請求書等保存方式と呼ばれています。3.令和5年10月1日以後は適格請求書等保存方式 インボイス制度は、「適格請求書等保存方式」として、軽減税率の導入から4年後の令和5年10月1日に開始します。 適格請求書等保存方式は、適格請求書発行事業者登録制度を基礎としています。国税庁に登録をした「適格請求書発行事業者」(以下、特に必要がある場合を除いて「登録事業者」といいます。)には、登録番号を記載した「適格請求書」(以下、特に必要がある場合を除いて「インボイス」といいます。)を交付・保存する義務があり、仕入れをした事業者においては、登録事業者から交付を受けたインボイスを保存することが仕入税額控除の要件となります。

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る